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名古屋地方裁判所 昭和45年(行ウ)49号 判決 1973年3月27日

三重県津市中新町二、〇一五番地

原告

岸江広造

右訴訟代理人弁護士

横井孚一

三重県津市桜橋二丁目九九番地

被告

津税務署長

田村正一

同(右指定代理人)

池田直衛

今泉常克

吉田和男

中山実好

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一、原告に対する昭和三九年分所得税につき昭和四四年四月一五日付、昭和四〇年分の所得税につき昭和四四年三月一四日付の各更正決定中、昭和四五年四月三〇日付名古屋国税局長の裁決で維持された。昭和三九年分総所得額九三四万〇、二五三円のうち八六二万〇、二五三円をこえる部分及び昭和四〇年分総所得全額三五五万一、一五〇円のうち二八三万一、一五〇円をこえる部分を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨

第二、当事者の主張

(請求の原因)

一、原告は被告に対しその昭和三九年分所得税につき昭和四〇年三月八日確定申告、同年五月一二日修正申告(第一次)同四三年二月七日修正申告(第二次)を、またその昭和四〇年分所得税につき昭和四一年三月一五日確定申告を、それぞれなした。

二、被告は原告に対し、昭和三九年分所得税につき昭和四四年三月一四日付で総所得金額一、一七二万六、〇二四円とする更正処分、同四四年四月一五日付で総所得金額を三三一万六、〇二四円とする更正処分(減額)、同日付で総所得金額を一、五二〇万六、二五三円とする更正処分(第三次)を、昭和四〇年分所得税につき昭和四四年三月一四日付で総所得金額を七四一万七、五〇〇円とする更正処分をそれぞれなした。

三、原告は被告に対し、右各年分の更正処分につき、昭和三九年分については昭和四四年四月一五日に、同四〇年分については同四四年四月一二日にそれぞれ異議申立をした。しかし、被告は右各申立の日の翌日から起算して三月を経過する日までにいずれも決定をしなかつたので当時の国税通則法八〇条一項一号によりその経過する日の翌日に訴外名古屋国税局長に対し審査請求をしたものとみなされることとなり、同局長は、昭和四五年四月三〇日付で、昭和三九年分所得税については総所得金額九三四万〇、二五三円をこえる部分、同四〇年分所得税については総所得金額三五五万一、一五〇円をこえる部分をそれぞれ取消す旨の裁決をした。

四、しかし、右各裁決後の各更正処分(以下本件各処分という)の各総所得金額は、昭和三九年分については八六二万〇、二五三円をこえる部分、同四〇年分については二八三万一、一五〇円をこえる部分である各七二万円については、現実に所得がないのに課税したものであつて違法である。

すなわち、被告は、原告の訴外有限会社御福餠本家(以下御福餠という)に対する貸付金が二、六〇〇万円あり、右貸付金に対し年一割二分の利息を得ているとして課税したものであるところ、原告の御福餠に対する貸付金は二、〇〇〇万円である。従つて、右二、六〇〇万円のうち、六〇〇万円に対する利息金七二万円は、原告において取得していない。

(認否)

請求原因一ないし三の各事実は認める。

一、原告と御福餠間の昭和三九年四月一日付認証ある公正証書記載の二、六〇〇万円は、原告の御福餠に対する貸金であり、かつ利息は年一割二分とする定めであつた。

二、原告は、右貸付金二、六〇〇万円のうち六〇〇万円については、訴外大形久志の貸金である旨主張するが、その理由のないことは、次の各事実から明らかである。

1.前記公正証書には、原告以外の者からの借入金が含まれている旨の記載はない。

2.借主たる御福餠代表者小橋信雄は、右公正証書が原告からの借入金二、六〇〇万円について作成されたものであり、大形久志からの借入金はない旨申立があつた。

3.大形久志が貸与したとする六〇〇万円の出所が不明である。

4.昭和四三年一〇月ごろ、大形久志の父である訴外大形信生の所得税調査に赴いた税務職員に対し、久志らは昭和三七年中に御福餠に対し金員を貸付けたことはあるが、その後はない旨申立てた。

5.大形久志に対する破産宣告後、破産財団を構成する資産のうちに右六〇〇万円の貸付金は計上されていない。

三、したがつて、右六〇〇万円は原告が貸付けたことは明らかで、その約定利息も当然原告に帰属するから、これを原告の雑所得に加算してなした本件各更正処分は適法である。

(被告の主張に対する認否および原告の主張)

一、原告が被告主張の公正証書を作成したことのみ認め、その余の事実は全て否認する。

二、被告の主張する貸付金二、六〇〇万円のうち六〇〇万円は原告の甥大形久志の御福餠に対する貸付金である。

すなわち、大形久志は、昭和三八年七月ごろ、近畿食品工業株式会社(以下近畿食品という)より、同会社が百五銀行伊勢支店から借入れた金員中二八九万一、五〇〇円を借受け、これと父訴外大形信生からの借入金三一〇万八、五〇〇円とをあわせて六〇〇万円とし、これを妻の父訴外小橋信雄が代表者であつた御福餠に貸付けたものであつて、その後昭和三九年三月原告が御福餠に対する貸付金二、〇〇〇万円につき公正証書を作成するにあたり、大形久志の依頼により同人の右六〇〇万円もあわせて公正証書に記載したものである。したがつて、原告は右六〇〇万円を貸付けたことはなく、またたその利息を受取つたこともない。

第三、証拠

(原告)

甲第一号証の一ないし四、同第二および第三号証を提出し、証人大形久志の証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立はいずれも知らない。

(被告)

乙第一ないし第三号証、第四号証の一および二、同第五ないし第七号証を提出し、証人杉山美命、同小林栄、同山田芳郎、同中山実好の各証言を援用し、甲号各証の成立は認める。

理由

一、請求原因一ないし三の各事実は当時者間に争いがない。

二、本件における主たる争点は、原告の昭和三九年分、同四〇年分の各総所得金額中、それぞれ七二万円の雑所得があるか否かであり、その余の点は原告は明らかにこれを争わないところである。したがつて本件各処分中被告が右各雑所得ありとした認定について検討する。

三、ところで、原告が現実に所得がないとする各年七二万円とは、被告が原告の御福餠に対する

二、六〇〇万円の貸付金について、各年にその年利一割二分の利息を得ていると認定したもののうち、二、〇〇〇万円をこえる部分六〇〇万円に対応する利息であるから、この部分の存否について判断すればたりる。

1.成立に争いのない甲第二号証、証人杉山美命の証言により成立の真正を認めることができる乙第一ないし同第三号証に、同証人の証言ならびに証人小林栄の証言を併せ考えると、原告は従来、第福餠に対し屡々資金的援助をしていたが、昭和三九年四月一日、同年三月三〇日現在における貸金債権合計二、六〇〇万円について、弁済期日同四一年三月三〇日、利息年一割二分と定め御福餠との間で債務確認並びに弁済契約を締結しその旨の公正証書を作成したことおよび右

二、六〇〇万円中には少くとも原告が昭和三八年末ごろまでに貸付けていた六〇〇万円もこれに含まれていることを各認めることができる。

2.原告は、右公正証書による二、六〇〇万円の貸付金のうち六〇〇万円は、その甥である訴外大形久志の御福餠に対する貸付金であり、これを同人の依頼により右公正証書に原告の貸付金のごとくに記載したものであると主張するけれども、後述のとおり、その事実を認め右の認定を覆えすわけにゆかない。すなわち前顕乙第一号証によれば小橋信雄は前記公正証書による二、六〇〇万円の借入金中大形久志からの借入金は含まれていない旨言明していること、証人中山実好の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証と同証人の証言を併せると津地方裁判所伊勢支部昭和四二年(フ)第一五号破産事件における破産者大形久志の破産財団には同人の右六〇〇万円の貸付金債権が計上されていないことおよび証人山田芳郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証に同証人の証言を併せると大形久志が昭和四三年一〇月四日伊勢税務署々長に対し、昭和三八年以降は同人の御福餠に対する貸付金はない旨申立てていることが各認められる。他方大形久志の貸付金六〇〇万円の調達先についての原告の主張についてみるに、近畿食品の百五銀行伊勢支店からの借入金をさらに借り受けたと称する二八九万一、五〇〇円については、証人中山実好の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証の一と同証人の証言を併せると、近畿食品の右借入金残金二八九万一、五〇〇円は、同銀行の近畿食品の当座預金口座から原告の別名である岸江積憲の裏書のある小切手により現金で支払われていること、また実父訴外大形信生から借り受けたと称する三一〇万八、五〇〇円については、証人小林栄、同山田芳郎の各証言によれば本件訴訟前の税務調査の際には、大形久志、同信生ともそのような貸付金はない旨言明していたことが各認められるので大形久志の貸付金の調達先についての原告の主張も認めがたく、以上の各事実からみると、大形久志が本件六〇〇万円の貸生であるといえないことは明らかである。右認定に反する証人大形久志の証言および原告本人尋問の結果は、たやすく措信できない。

四、よつて当事者間争いない二〇〇〇万円のほかになお六〇〇万円分の貸付債権があるものとした被告の認定は正当であり、また貸付金の利息が年一割二分であることも先に認定したとおりであるから本件係争各年分雑所得に右貸付金の利息としてさらに七二万円を計上したのは正当であり、結局本件各処分は適法である。

五、したがつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用については、行政事件訴訟法七条民事訴訟法八九条により原告に負担させることとし、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 下方元子 裁判官 小林克已)

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